生産者と消費者を
つなぐ懸け橋に
〜フードマーケット事業による
みのりみのるプロジェクト〜

品部 京子

Kyoko Shinabe

2012年入会
生命環境化学研究科修了

本所
フードマーケット事業部
リテール事業課


銀座店の『みのりみのるプロジェクト』の取り組みを知り、自分もこの仕事がしたいと入会。生産資材部で、大学院時代の研究を生かしたトマトの高収量を実証するための生産資材などを担当した後、5年目にして晴れて本プロジェクトにアサイン。「みのりみのるプロジェクト」の直営飲食店舗の企画・運営を通じて、外食産業における国産食材の利用拡大や消費者の食材産地に対する意識向上に力を注ぐ。

岸本 紘一

Koichi Kishimoto

2001年入会
理工学部卒

岡山県本部

管理部
総務人事課


祖父が農家であったことから故郷の農業に貢献したいと入会。本所 生活リテール部 中四国生活事業所(現・くらし支援事業部 中四国生活事業所)、本所 総合企画部(現・経営企画部)なども経験し、県本部と本所の双方に幅広い人脈を有することから、特命により県本部の担当として本プロジェクトに従事。岡山店で使用する県産農畜産物の選定・確保や、本プロジェクトに参加する県内地元生産者との懸け橋となる。

全国の主要都市へと新規出店を拡大する。

JA全農が2010年より取り組む「みのりみのるプロジェクト」。そのコンセプトは、「生産者と生活者が互いを想い、食と農をつうじて共感する」機会を提案すること。そして目指すは、国産農畜産物の消費拡大と日本農業のファンをつくること——。立ち上げから10年。プロジェクトはいよいよ次のフェーズに入ろうとしていると、品部は明かす。

「もともとは『日本農業の価値を伝えてほしい』『消費者に直接伝わるPRをしてほしい』といった、生産者の声に応えたいという思いで直営の飲食店舗をスタートしたと聞いています。しかし、当時のJA全農にはこうした事業を所管する部署がなかったことから、文字どおりプロジェクトベースで取り組みを拡大してきました。それでも10年という歳月によって、さまざまな知見も蓄積されて、いよいよ事業化に向け一連の取り組みを加速させる段階にきました」

本プロジェクトは4つの柱によって構成されている。①直営飲食店舗の企画・運営、②フリーペーパー『AGRIFUTURE』の発行、③同紙と連動した『みのりみのるマルシェ』の開催、そして④ワークウェアの企画・販売や行政と連携したI・Uターンの促進など。なかでもプロジェクトの中核を担っているのが、品部が担当する直営飲食事業だ。

2020年1月末現在、JA全農は『みのる食堂』『みのりカフェ』といった「みのりみのる店舗」を8拠点で12店舗展開している。これまでは、1店舗1店舗試行錯誤を続けながらの出店であり、品部たち本所のメンバーで出店した店舗もあれば、ブランドやコンセプト、ノウハウを共有しながら県本部主体で開業させた店舗もある。しかし、2020年3月にJR岡山駅の駅ビルにオープンする岡山店では、当初から本所と岡山県本部がタッグを組み、ひとつのモデルケースを生み出すべく取り組んできた。そしてこれを機に、品部たちは全国の主要都市へと新規出店を拡大しようと計画しているのである。

JR岡山駅への出店に向けて、県産品にとことんこだわる。

岡山駅ビルへの出店経緯について、品部は次のように解説する。

「私たちはこれまで、JR各社様と同じ目的を共有してきました。それは地方創生、地域活性化です。農業も鉄道も地域に根ざす事業であり、地元のお客様のニーズを生み出し、満たしていかないかぎりは継続の難しい事業です。そこで私たちは駅のコンコースで『みのりみのるマルシェ』を開催したり、駅ビル内の商業施設に『みのりみのる店舗』を展開したりと、協力的な関係を築いてきました。そうしたなかで2019年の夏、JR西日本様から岡山駅のリニューアルに伴う出店のお声掛けをいただきました」

とはいえ、主要駅の商業施設は外食事業者にとってみれば一等地だ。当然のことながら競合も多く、賃料、契約年数、施設内の場所取りにおいて好条件を得るためには、しっかりとした事業計画を立てる必要があった。そして、競合に勝つためには「みのりみのる店舗」を駅ビルに出店することの意義を、関係するすべての人に納得してもらう必要があった。それらを満たしたからこそ、駅ビルへの出店となったわけだが、そのカギを握ったのが岡山県産の食材選びだった。品部は次のように明かす。

「飲食事業の常識としては、先にメニューを考え、原価を算出し、コストを抑えるために輸入食材なども使っていく、といった流れとなります。ところが、『みのりみのる店舗』の場合は、先に地域の食材ありき。しかも岡山店の事例でいえば、岡山県産の食材にこだわることで、観光、ビジネス、そして地元のお客様に『ご当地のものを食べたい』と思ってもらえるような仕立てにすることが大事。それを実現できれば駅にお店を出すことの意義も大きくなるからです。そこで助けとなったのが岡山県本部の岸本さんの存在でした」

この言葉を受け、岸本も次のように話す。

「これまでも品部さんたちは『国産食材』と銘打ちながら、同時に出店地の県産品をなるべく用いることで地域性を出す工夫をしてきました。しかし、これから全国に店を出していくということになると、各店舗との差別化という観点からも県産品の使用にいっそう注力していく必要があります。まして農作物には時季というものがありますので、それを念頭に置いたうえでの年間の食材選び、メニュー開発というのが重要です。旬の食材を出せなければ『みのりみのる店舗』の存在意義も薄れてしまうだけに、私も力が入りました」

ブランド化されている食材を使いながらも現実的な価格で。

品部が具体的な計画作成に取り掛かると同時に、岸本も県本部内の米、野菜、畜産、果物といった各部署の担当者たちと連携し、岡山県産食材の洗い出しを始めた。そして、ある程度の候補がまとまったところで、品部含めた店舗開発の関係者で岡山へ。候補となる食材の選定にはじまり、それをどうメニューに落とし込んでいくか、価格設定をどうするかなど、市場を回り実物を確認しながら、皆で意見を出し合う場が何度も設けられた。岸本は当時の様子を次のように振り返る。

「たとえばブランド化されている和牛肉などは看板メニューにふさわしい食材ですが、外国産と比べれば割高です。そこで私たちは用いる部位を工夫することでメニュー化を実現しました。このようにブランド化されている食材を使いながらも現実的な価格で提供するために、私たちは国産の農畜産物を熟知するJA全農の知見を総動員していきました」

こうして、おかやま和牛肉やピーチポークといった肉類をはじめ、全国一位の収穫量を誇る黄ニラなどの野菜、そしてフルーツの産地らしく白桃やブドウといった岡山を特徴付ける食材が、次々とメニュー化されることになった。なかでもユニークな食材として主役たちを盛り立てるのが、主食となる「里海米」の白飯だった。岸本は解説する。

「『里海米』とは、品種ではなく栽培方法を指します。瀬戸内海の名産である牡蠣の殻を土壌改良材として田んぼに撒くことで良質なお米が収穫できます。田んぼに残ったミネラルは、川から海へと流れ込み、海の養分となって牡蠣を育みます。こうした循環型の栽培を実現させたのが『里海米』で、岡山店では『里海米』によるご飯のほか、牡蠣殻を混ぜた餌を食べさせた鶏から生まれた『里海卵』を使った料理もメニューに並びます。単に県産品を用いるだけでなく、農家の取り組みもしっかりとお客様にお伝えすることで、岡山の農業のファンになってもらう店舗を目指しました」

岸本や飲食事業者の担当者らにより、食材やメニューが拡充していくのを見届けながら、品部は同時に既存店の店舗設計・施工管理の担当者と、岡山店の内装を詰めていった。工夫したのは、岡山県産のデニムを暖簾、シートに採用したり、岡山県産木材を店内に配したりと、食材以外でも県産品を取り入れたことだった。こうして岡山店ならではの店構えとメニューが実現され、開店を迎えることとなった。

旬の食材で味わいと食文化を伝え、健康も促進。

品部は、プロジェクトの10年の歩みを次のように語る。

「10年前、銀座店が1号店として開業したころ、外食産業で産地をうたう店舗は少数派でした。でも、銀座、福岡、仙台と店舗が増えるにしたがい、大手外食企業の視察を受けるまでとなりました。実際に産地を明示したお店や、ご当地色を打ち出したお店も増え、生産者からもPRしたい食材の提案をいただくなど、徐々に活動の輪も広がってきています。地元客や観光客に混じって、出張で訪れるビジネス客の姿も増えたこともあり、SNSなどを通じた口コミによってご当地の食文化が全国に発信され、当地でも郷土の文化を見直す気運が生まれ、多少なりとも地域の経済にも貢献できていると思います」

商売の先達である近江商人の教えに、「三方よし」という言葉がある。売り手よし、買い手よし、世間よし。「みのりみのる店舗」は、まさにこの「三方よし」を実現している。ここでの売り手は、もちろん生産者。買い手は消費者であり、世間は地域社会だ。こうした「三方よし」が「みのるみのり店舗」を通じて日本各地で実現されていけば、地方は元気になり、地域の個性も磨かれ、この国は多様性を取り戻してより豊かな国となるはずだ。そのためにも、品部と岸本は「むしろ開店後が大事」と口をそろえる。岸本は話す。

「開店後という点で、私の仕事はむしろこれからが本番です。岡山店を起点に、いかに地元の生産者を巻き込み、『みのりみのるプロジェクト』を生産者参加型のプロジェクトへと導いていけるか。店舗で使う食材は『みのりみのるマルシェ』でも販売したいし、出品する生産者の取り組みは『AGRIFUTURE』でも特集して多くの人にお知らせしたい。本プロジェクトの一連の取り組みはすべてが連動したとき、生産者と消費者の活発な交流が生まれ、それが生産者のモチベーションとなって地域に活力を与えていくはずです。だから私はこれから岡山店を実験場にして、関係各位を巻き込みながらいろいろと仕掛け、各地で誕生する『みのりみのる店舗』の活用術をどんどん生み出していきたいのです」

そして、品部も胸の内を次のように明かした。

「実は私、大学院時代に銀座店で、お母さんたちが小さなお子さんを連れて入店待ちをしている光景を目にしたとき、このプロジェクトに携わりたいと心底思ったんです。だから新規出店の拡大も、チェーン店化を目指すのではなく、気候風土も生活文化も異なる各地の味わい、その文化を伝え、サステイナブルの象徴となるようなブランドへと育てていきたいと思っています。そして外食産業で使用率の高い輸入食材を国産食材へと置き換え、日本の食料自給率の向上と地域の発展につなげていきたいと、本気で考えています」