日本の畜産の
生命線を担う
〜北米・南米における
飼料原料調達プロジェクト〜

市瀬 一貴

Kazuki Ichinose

1995年入会
法学部卒

本所
畜産生産部
穀物課 課長


組合員に提供する家畜の飼料(配合飼料)の原料となるトウモロコシやマイロを、海外から調達する穀物課の課長を務める。畑中たちトレーダーが判断に窮したときの相談役であり、本プロジェクトに関する今後の事業戦略の立案にも深く関わる。本部署に異動前は『CGBエンタープライズ』に出向。株主としての立場から、同社の経営管理にも従事するなど、海外での穀物集荷輸出を熟知するエキスパートのひとり。

畑中 愛美

Emi Hatanaka

2011年入会
国際教養学部卒

本所

畜産生産部
穀物課


トウモロコシ、マイロ購買の主担当。JA全農の子会社である『全農グレイン』のトレーダーと連携しながら、もっとも安い産地からの購買を行っている。さらに年に数回は、海外に出張。まだ拠点を構えていない国や地域の情報収集を進める。また、国内エンドユーザーとのコミュニケーションにも力を注いでおり、「海外の生産者から購入し、国内の生産者に供給する」までの一貫体制の確立、効果最大化も推進中。

トウモロコシやマイロを安く調達し、組合員に還元する。

JA全農は生産資材の供給を通じて、組合員を支えている。なかでも畜産の飼料となる各種原料は、その大部分を輸入に頼っており、畑中はその半分を占めるトウモロコシ(デントコーン)や同じイネ科の一種であるマイロを、アメリカやブラジルなど世界各国より調達。年間数百万トン、金額に換算して1000億円規模の購買を、主担当として進めている。

そうした自らの業務内容について、畑中は次のように解説する。

「アメリカに拠点を構える全農の子会社『全農グレイン』のトレーダーとともに、南米・黒海・南アフリカといったアメリカ以外の産地の情勢について逐次、情報を集めながら、もっとも安い産地から購買しています。また、トウモロコシやマイロは大型船を使って日本まで輸送するわけですが、他の原料も一緒に積載して輸送しますので、他原料の購買担当者や用船担当者、受渡担当者などと連携しながら、最適な物流で日本に輸入できるよう、購買産地・数量・時期の調整も同時に行っています」

一連の業務のなかでももっとも心血を注ぐのが、「情報に漏れがないようにすること」だと畑中は語る。欧米の情報会社から上がってくるマーケットに関するレポートに目を通し、『全農グレイン』のトレーダーと意見交換。日本の他の輸入商社のトレーダーや、輸出業者であるシッパーの日本事務所にも連絡を入れて、当事者でしか知り得ない情報も集めている。もちろんインターネットもフル活用し、一般に公開されている情報もチェック。各国の情勢、市況に影響を与えそうな政策、農作物の生育を左右する天候などを絶えず確認し、自らの業務に必要な情報をつねにアップデートしていると、畑中はいう。

「私たちには穀物メジャーとも競合ながら、品質に優れるトウモロコシやマイロを1円でも安く調達することで、組合員の皆さんへと還元し、国産の畜産物の価格競争力を高めていくことが求められています」

情報に漏れがないようにすること、それを絶えずアップデートしていくことは結局、トレーダーとしての先を見通す力、価格交渉時の説得力につながると畑中は語るのだ。

長年の悲願であり、この先も続いていく一大プロジェクト。

時代は目まぐるしいほどのスピードで変化している。それは穀物市場においても同様だと畑中はいう。その具体例として、2018年の米中貿易戦争を例に次のように解説する。

「両国が相互に追加関税を掛け合ったことは記憶に新しいところですが、その応酬のなかで中国がアメリカ産大豆に25%の関税をかけました。その前年、アメリカから中国へ輸出された大豆は中国の輸入量の3割超を占めていましたが、この輸出が中国の追加関税によって完全にストップ。アメリカから輸入できなくなった中国は、ブラジルからの輸入を増やすことになりました。このとき市場では、ブラジルの1年後のトウモロコシが急に安く売りに出されました。中国の大豆の輸入拡大を期待し、ブラジルで大豆の裏作として生産されるトウモロコシの翌年の作付けが増えることを見越した動きでした。私たちトレーダーが各国の情勢や政策に敏感であるのも、その一つひとつが現代では瞬時に、かつグローバルに、マーケットを大きく動かすからなのです」

しかもこのとき、「大豆だから、トウモロコシ担当の自分には無関係」とならなかったところに、この仕事の奥深さを感じたと畑中は話す。それというのもブラジルでは、収益が見込めることから大豆の裏作としてトウモロコシの作付けが進んでいるからだ。

「実は近年、穀物輸出国としてブラジルが再注目されています。開拓できる土地が残っているうえ、収穫量も技術革新で増える余地が多分に残されていたこともあり、ここ数年は生産量も拡大の一途を辿り、今後も増産が見込まれることもから価格競争力も増しています。加えて、南半球に位置することにより、アメリカなど北半球とは収穫時期が異なる点でも、穀物輸出国としてのブラジルを優位な立場へと押し上げているのです」

そこでJA全農も2015年、『全農グレイン』のブラジル現地法人として『全農グレインブラジルホールディングス』をサンパウロに設立。さらに2017年には、同社を通じて資本参加した『アマッジ・ルイドレファス・全農ホールディングス』を設立した。こうしてJA全農は、ブラジルにも拠点を構えたのである。

こうした経緯もあり、今や畑中もアメリカだけでなく、ブラジルからもトウモロコシを調達しやすくなったわけだが、畑中の上司である市瀬は次のように明かす。

「北米、そして南米における飼料原料調達の実現は、言うなればJA全農の長年の悲願でした。そして同時に、この先も続いていく歴史的な一大プロジェクトでもあるのです」

生産者から生産者まで、一気通貫のサプライチェーン。

市瀬によれば、本プロジェクトは穀物の主要な輸出港であるニューオリンズに、輸出施設である『全農グレイン』を1979年に設立したことに端を発するという。

「目的はただひとつ、『飼料原料を安定的、かつ競争力のある価格で買う』ことでした。それというのも穀物業界というのは誰に対してもオープンというわけではなく、知り得ない情報も多分にあります。結果として、専門業者を介しての購買となると、なかなか競争力のある価格では購入できません。有利な条件で安定的に取引するためには、自ら産地に分け入り、拠点を構え、自前で調達することが必要だったのです」

とはいえ、事業が安定的に行えるまでの苦労は並大抵ではなかったと聞いていると、市瀬は明かす。それでも先人たちは、トレーダーの畑中が語ったように「1円でも安く調達することで日本の農業に貢献する」という高い志を胸に奮闘。現地の人たちを積極的に採用し、彼らに権限委譲しながら、『全農グレイン』の事業を軌道へと乗せていった。

そして1988年には内陸産地での集荷力を強化するために、穀物の集荷や輸送を行う『CGBエンタープライズ』を買収するのだが、その意義を市瀬は次のように解説する。

「同社は生産者から直接、トウモロコシを購入しています。つまりJA全農は、『CGBエンタープライズ』の買収を通じて『生産者から購入し、生産者へ供給する』という一気通貫のサプライチェーンを構築することに成功したのです」

現在、畑中が『全農グレイン』を介してアメリカで調達するトウモロコシやマイロは、『CGBエンタープライズ』が約90か所に構える集荷拠点、カントリーエレベーターに一時的に保管され、艀(はしけ)を使ってミシシッピー川を下り、『全農グレイン』で本船に積み替えられて、日本へと輸出される。一連の物流をふまえ、市瀬は話す。

「先に輸出拠点を構えてルートを確保し、続いてその集荷能力を高めていく。先人たちは正しい順番で事を進めており、私はここにJA全農の本気を感じるのです」

現在の『CGBエンタープライズ』の保管能力は全米でトップ10に入る規模。『全農グレイン』も新たな設備投資が2018年に完成し、同社の積込み能力は数百万トンの規模で飛躍的に増加した。もともと単一の輸出エレベーターとしては世界最大の取扱数量を誇ってきただけに、JA全農はここに、アメリカにおいて先人たちが夢見た穀物集荷輸出の一大ネットワークを見事、確立したことになる。

しかもこの結果、中国などの日本向け以外の貨物も取り込んでいくことが可能となり、施設の回転率を上げることでオペレーションコストを下げ、従来にも増して安定的に、組合員へ飼料原料を供給することができるようになったのである。

穀物メジャーと渡り合い、日本の農業の未来に貢献する。

現在、JA全農はカナダでも調達プロジェクトを進行中だ。カナダは、大麦・小麦・菜種の主要な輸出国。そこで2015年、『全農グレイン』は合弁で『グレインズコネクトカナダオペレーションズ』をカルガリーに設立。カナダの穀倉地帯であるサスカチュワン州、アルバータ州にカントリーエレベーター4基を建設し、大麦・小麦・菜種などの安定的な集荷基盤の構築を進めている。

他方、JA全農はアルゼンチンの農協とも50年以上にわたる長期的な取引関係を構築している。さらに南半球においては、オーストラリアの農協とも提携関係を結んでおり、こうした関係性が産地多元化の一助となっているのである。市瀬は話すのだ。

「競争力のある価格で飼料原料を調達するには、世界各国から戦略的に購入できるようにしておくことが必須です。中国が輸入国として大きな存在感を放つ一方、穀物メジャーは大きな力を持っており、こうしたなかでJA全農が組合員の必要とする飼料原料を安定的に調達するには、同等の立ち位置にまで上り詰めていく必要があります。そのためにもグローバルに穀物集荷力を強化していくことの必要性を感じており、JA全農が今後も世界の産地に拠点を増やしていくことは十分に考えられます」

そのやり方についても、自前でやる、買収でやる、合弁でやる、提携でやる、とさまざまあり、それを判断するには投資の知識が必要。また、調達した穀物を組合員以外にも販売することを視野に入れれば、マーケティングの知識も必要と市瀬は言葉をつなぐ。

「実は私たちが手掛ける事業は非常に広がりのある取り組みであり、トレーダーを皮切りに実地を重ね、どんどん知識武装していけば、自らがその開拓者になれるのです。これこそがJA全農で働く醍醐味であると同時に、私自身もどんどん『越境』していくことが求められていると理解しています」

無謀とさえ言われた飼料原料の自前調達も、振り返れば40年という歴史を積み上げ、そのアセットをフル活用することで、穀物メジャーとも渡り合うところまできた。しかも、その取り組みは営利が目的ではなく、あくまで日本の農業のため。だから「これほどダイナミズムとロマンあふれる仕事もそうはない」と、畑中と市瀬は異口同音に語るのだ。