バリューチェーンで
農業の新しい未来を
〜実需者と生産者とを強固につなぐ、
業務用米バリューチェーンの構築〜

相澤 司

Tsukasa Aizawa

2008年入会
経済学部卒

福島県本部
米穀部 米穀課


本プロジェクトでは、福島県内において県産米を使用する実需者や、そのニーズの把握を進めながら、生産者とのマッチングを実施。そこで収集した内容を、県内JAの営農及びTACと連携し生産者へと伝え、需要に対する供給体制を産地として構築していくことを進めている。生産者は今年の米を収穫する前から、種子の購入など来年の作付計画を進めていることもあり、2年後、3年後を見据えた需要と供給のマッチングを念頭に、日々の業務を推進している。

加藤 伸行

Nobuyuki Kato

2009年入会
文学研究科修了

本所

米穀部

西日本米穀販売事業所

福岡事業所


本プロジェクトでは、九州地方に本社を構える比較的企業規模の大きい中食事業者や冷凍食品メーカーなどへ業務用米を販売しているほか、新規に外食チェーンとの商談も進めている。他方、九州地方における各産地のJA、生産者を訪ね、業務用品種の生産提案を実施。生産者にとって新品種に取り組むことはリスクを伴うことから、本所他部門の協力を仰ぎながら先行事例を次々と生み出し、得られた知見、ノウハウを全国に水平展開している。

日本人の米離れが進む一方、中食・外食市場で需要が拡大。

日本人の米離れが進んでいる。農林水産省の調査によれば、国民一人当たりの米の年間消費量は50年ほど前にピークを迎え、120キロ近くあった。ところが、現在は60キロ以下と半減。全国の年間消費量も直近の1年間で14万トンも減っており、この数値を水田の面積に換算すると、山手線内側の面積の4倍強に相当する。事実、農家全体の戸数はこの50年で約4分の1にまで減少しているという調査結果もある。

こうした日本の米を取り巻く環境について、加藤は次のように語る。

「少子高齢化、少数世帯の増加、女性の社会進出、食の多様化など、日本人のライフスタイルが時代とともに変化してきたことが、日本人の米離れの背景にあります。でも、本当にそれだけなのか。私たちのプロジェクトは、言うなれば日本の米事情についての既成概念を疑ってみることから始まったとも言えます」

加藤は指摘する。現代の日本社会は家族のカタチが変化していると。たしかに総務省の国勢調査によれば、日本の人口は2008年をピークに減少しているが、一方で世帯数は増加。単身世帯は40年前と比べ4倍、2人世帯も3倍と大きく増えている。これは核家族化、3世帯からの分化が進んでいることを示す。さらに厚生労働省の厚生労働白書などによれば、2017年時点の共働き世帯数は1188万世帯となっており、1980年の約2倍となっている。こうした実情を踏まえ、加藤は語る。

「単身世帯の増加、働く女性の増加といった社会変化によって、現代は『食の簡便化』志向が高まっています。その証拠には、お弁当やお総菜などの『中食』の市場規模は10兆円を突破しており、『外食』市場にいたっては25兆円規模となっています(※日本惣菜協会調べ)。さらに近年は、インバウンド市場も拡大しています」

観光庁などの資料によれば、2017年の訪日外国人観光客数は2869万人で、彼らの旅行消費額は4.4兆円とも試算されている。うち、飲食費や食料品に対する消費額は1.2兆円とも言われ、今後も拡大することが見込まれている。つまり、こうした市場に向けて「業務用米」の販売を強化していけば、お米の消費量、そのニーズを高めていくことができるはず——。これが加藤や相澤らが進める本プロジェクトの核心だ。

プロダクトアウトから、マーケットインへ。

本プロジェクトは、「販売」と「生産」の二方面展開となっている。

販売面においては、卸売業者と協力し、中食、外食事業者などの実需者に対し、実態の把握やニーズへの対応、需要の掘り起こしなどを進めている。とくに実需者が全国展開している場合は、広域をカバーする加藤たち本所の担当者が対応。実需者が地域に根ざしている場合は、県域をカバーする相澤たち県本部の担当者が対応している。

他方、生産面では各産地のJAと協力し、生産者に対し業務用品種の生産提案と、実需者へのマッチングに取り組んでいる。また、実際の生産においては、加藤たち本所の担当者が耕種総合対策部や肥料農薬部などが保有する知識や技術、情報を活用し、各地の生産者たちの協力を仰ぎながら、業務用品種の試験栽培、ブラッシュアップを実施。先行事例を次々と生み出し、そこで得られた知見、ノウハウを水平展開している。そして、それを相澤たち県本部の担当者が、県域の各生産者へと導入を進めていくというのが、本プロジェクトの全体像となっている。

そして一連の取り組みを通じて、実需者と生産者とをつなぐバリューチェーンの構築を推し進めているのだが、ここにはこれまでの集荷販売の取り組みへの反省も込められていると加藤は明かすのだ。

「これまで私たちは、一方通行の事業展開となりがちでした。JAを通じて生産者からお米を集荷し、卸売業者や量販店へと卸し、消費者に販売していく。こうした米の流通を確実に実現させることが、自分たちの使命と考えてきました。しかし、生産者からしてみれば、消費者の顔が見えません。逆もしかり。結果として、生産者側の都合を優先する『プロダクトアウト』がまかりとおり、消費者ニーズを満たす『マーケットイン』が欠如していました。日本人のお米離れは時代の変化によるものであることはたしかですが、他方で『マーケットイン』の発想があれば、もう少し事態は変わっていたかもしれません」

そして相澤も次のように言葉をつなぐ。

「もともと日本の生産者の技術、能力は優れています。『こういうお客様を想定しています』と伝えるだけで、どんなお米が求められ、どんなふうに作っていけば想定のお米になるかを、きちんとイメージできる人たちです。だからこそ私たちは『売って終わり』ではなく、むしろ『売った先のこと』をきちんと生産者にフィードバックすることで、今後に向けてともに考え、ともに歩んでいくことがとても大事。『マーケットイン』とは、そういうことだと理解しています」

業務用米への取り組みは営農の安定へとつながる。

加藤によれば、外食チェーンの店舗が1店舗増えるだけで、相当量の業務用米の需要が生まれるとのことで、こうした現実が販売での追い風になっているという。一方で、生産においてはなかなか一筋縄ではいかない現実があると、相澤は話す。

「たとえば福島県では、〈コシヒカリ〉〈ひとめぼれ〉〈天のつぶ〉といった、全国にその名を知られるブランド米の生産が盛んです。ブランド米を手がけるというのは、生産者にとって誇りでもあります。そうした方々に対して新たに業務用米を作って欲しいと依頼しても、なかなかモチベーションを高めるインセンティブとはならないのです」

さらに生産者が新品種に取り組むことにはリスクも伴うと、相澤は明かす。

「生産者は長年、同一品種を手がけているからこそ、適切なタイミングに適切な農作業を行い、一定の収量を確保できます。しかし新品種については、経験も知見もないため、軌道に乗せるまでに2〜3年、安定した生産量へと導くまでに4〜5年はかかり、経営体としての体力も必要になってきます」

こうなると疑問がわく。生産者たちがそこまでして業務用米に取り組むことのメリットとは何なのか。この点について、相澤の解説は明快だ。

「販売先が事業者というのがポイントです。一般消費者向けのブランド米は、売上が景気に左右されるほか、豊作による生産過剰により市場に一斉に出回ってしまうと、値崩れすることもあります。対して事業者向けの業務用米は、事業計画に基づき購入されることから一定額で取引されるうえ、事業者はその時の米価変動に左右されない安定的な仕入れを望むために複数年契約を求めるケースも少なくありません。これは生産者にとっての営農と経営の安定へとつながります」

さらに専門的なことをいえば、農作業というのは同じ時期に同じ作業が集中してしまうことから、生産者たちは早生、中生、晩生と異なる品種を作付することで作業時期をずらし、作業の効率化を図っている。また、大規模経営体になるほど主食用のお米のほか、もち米や酒米といった原材料米や飼料用米など複数の米を作り、病気や自然災害からのリスクを分散している。つまり、作業の分散、リスクの分散という観点からも、業務用米を手がけるメリットは少なくないと相澤は解説する。そして加藤も言葉を添える。

「実はブランド米というのは、比較的高い単価での販売が期待できる一方で、食味向上のために収量を抑えて栽培されます。対して業務用米は、一般的な品種に比べると比較的安価ですが多収性の品種で取り組むため、相対的に単価が低くても量でカバーすることが期待できます」

日本各地に広がる田んぼの風景を、未来への価値に。

加藤は本プロジェクトにかける思いを、次のように明かす。

「米の生産を取り巻く厳しい現実を示す数字も、よくよくみると法人経営体が10年前の2.2倍に増えていたり、49歳以下の新規就農者数が3年連続で2万人を超えていたりと、期待を感じる数字も見えてきます。私たちはこうした新しい動きを、業務用米のバリューチェーンにしっかりと組み込むことで、日本の農業を未来へとつなげていきたいのです」

各実需者とも業務用の不足感が強いほか、災害時における原料調達を考慮した地元産米の確保という面でも、われわれの取り組みには強い期待を示してくれている。さらに相澤が指摘したように、大規模経営体が業務用米に取り組むメリットは少なくないはずだし、新規就農者たちにとっても、競合ひしめくブランド米だけに注力するよりも、業務用米もバランスよく手がけることで早く経営を安定させたほうが、先々を見据えたその後の取り組みも進めやすいはずと、加藤は話す。

「結局、自分たちがやるべきは、お米を取り巻く日本の農業の現状を的確に把握し、『豊作だ』『不作だ』『高かった』『安かった』などと一喜一憂するのではなく、つねに安定した営農を実現するための戦略を描き、実践していくことだと心得ています」これを受けて、相澤も次のように語る。

「本所の戦略を、いかに現場に落とし込んでいくかは、私たち県本部の担当者の手腕にかかっていると自覚しています。福島県においては、業務用米に取り組む生産者はまだ少数ですが、興味を示してくださる生産者は日増しに増えています。それだけに私たち県本部の担当者が、本所が集約する知見、ノウハウを活用しながら、生産者が業務用米に取り組む環境を整えることができたら、生産も伸びていくはず。現場に近いからこそ、私には本プロジェクトの推移をきちんと見届ける義務と、JAとともに全力でサポートする責任があると理解しています」

そして、ふたりは口々に話すのだ。自分たちの取り組みが起点となって、10年後、20年後も日本各地で田んぼの広がる風景を守ることができれば、それはきっと未来へとつながる価値となるはずだと。