多様なパートナーとの連携を図り、
農業を通じて社会課題を解決していく。

コロナ禍がもたらした
影響と変化

今回の新型コロナウイルス感染症の拡大は、日本の「食」と「農」にどのような影響をもたらしているのでしょうか?

インバウンド需要の消失や会食の自粛などによって〈外食〉市場が縮小し、和牛や業務用米、日本酒などの消費が大きく落ち込んでいます。イベントも少なくなっているため、花の需要も低迷していますね。これに対して〈中食〉や〈eコマース〉市場が、これまで以上に伸びています。〈eコマース〉に関しては、JA全農が運営するECサイトの売上だけを見ても前年比で約300%となっています。従来は高級果物や高級肉といった贈答品用の農畜産物が売れていたのですが、緊急事態宣言以降は、普段使いの野菜や肉などが売上を伸ばしています。
このように新型コロナウイルス感染症の拡大は、消費の形の急激な変化をもたらしました。また、コロナ禍でもスーパーなどで品切れによる大きな混乱が起きなかったのは、JAグループが安定的に国産農畜産物を供給したからこそといえます。当初は全国で学校給食がストップしたこともあり、生乳が一時的にだぶつきましたが、結果として生産者の想いが込められた生乳を一滴も廃棄処分せずに済みました。こうした事実も含め、今回のコロナ禍によって図らずもJAグループが構築してきた流通網がいかに強固であるかが立証されました。これは同時に「安全・安心な農畜産物を消費者に安定的に供給する」というJAグループの役割を、きちんと全うしたことの証左であり、この点については私たちも自信を深めることができました。あらためて認識しているのは、かねてより私たちが抱いてきた問題意識や想定してきた変化が、コロナ禍によって先取りされたということです。

問題意識や想定してきた変化とは、どのようなものでしょうか?

ご承知のように、現在の日本は人口減少の局面にあります。20年後には、食べ盛りの子どもが300万人減り、働き盛りの大人が1400万人減ります。トータルで1700万人、現在の数値で換算すると、そうした世代の約2割にあたる人口が減少します。この数字が社会やライフスタイルに与えるインパクトは決して小さなものではありません。日本人の暮らし方や働き方を大きく変えるはずであり、これにともない消費、流通、農業生産現場、そして地方が、これまで経験したことのないスピードで変化していくはずだと私たちは考えています。
2019年に策定した中期3か年計画では、5つの最重点事業施策を定めました。「生産基盤の拡充」「食のトップブランドとしての地位の確立」「海外戦略の構築」「元気な地域社会づくりへの支援」「JAへの支援強化」の5つですが、今回のコロナ禍でそうした施策の重要性が再認識されることになりました。
コロナ禍による変化は、今後も一定定着するものと、また元に戻るものに分かれます。したがって、変化についての目利きや気付きが必要とされます。そのかたわら、コロナとともに、人口減少という経験したことのない構造変化が既に始まっています。

顕在化した変化に対する
JA全農の取り組み

顕在化した変化を踏まえ、今はどのような取り組みを進めているのでしょうか?

〈消費〉の現場においては、製造業や小売業といった企業への出資や業務提携を加速させています。私自身、食品・飲料メーカーといった「作るところ」、あるいはスーパー・コンビニといった「売るところ」に対し、トップセールスを行っています。消費者がどんな形で、どこから買うのかを見極めることが必要です。食品メーカーに関して言えば、冷凍食品のニーズに変化が生じているということを冷凍食品会社の社長からお聞きしました。これまでの冷凍食品は、スーパーにおける安売りの目玉商品として扱われることが多く、メーカーも大量に安く作ることに主眼を置いてきました。ところが、コロナ禍の影響から冷凍食品が家庭の食卓に広く定着するようになったことで、消費者のニーズも価格から品質へと変化し、国産農畜産物を原料としたものが求められるようになっています。これは、私たちにとっての大きなビジネスチャンスです。
他方、スーパー・コンビニに関しては、JA全農は『ファミリーマート』に出資しました。コンビニ業界は熾烈な競争が繰り広げられていますが、今後、コンビニとスーパー、eコマースの境界が曖昧になってきます。JA全農としては、今回の出資を国産農畜産物の販路拡大に終始させるのではなく、小売がどう変わっていくのかを一緒に経験することによって、移りゆく消費者の動向、ライフスタイルの変化をきちんと把握し、それを農業の現場へとフィードバックしていくことを意図しています。使い古されてきた言葉ではありますが、あらためて「マーケット・イン」という発想を、〈生産〉現場へ浸透させる契機としたいと思います。

その〈生産〉現場ですが、こちらではどのような取り組みを行っていますか?

少子高齢化を背景に就農人口も減少の一途を辿っているだけに、労働力不足への対策を強化しています。とりわけ「担い手の育成・確保」と「スマート農業」に関する取り組みを、さらに加速させています。
前者については、たとえば岐阜県において12年前より新規就農者、具体的にはイチゴ農家の育成に取り組んでいます。参加者1人に対し10アールのハウスを預け、15か月にわたり実地研修を積んでもらっていますが、この12年間で45人が卒業し、離農者はゼロ。現在、岐阜県内のイチゴ農家の約2割を、この実地研修の卒業生が占めています。地道ではありますが、こうした新規就農者の育成の取り組みをJAと連携しながら各地へと展開しています。
また、Web求人サイトを活用した「労働力支援」のマッチングや、障がいのある方を〈生産〉現場に受け入れる「農福連携」にも取り組み始めています。今回のコロナ禍で外国人実習生の来日が不可能となりましたが、代わりに地域の旅館業や飲食業に従事する人たちが地元農家を手伝うといった光景が各地で繰り広げられました。この事実が教えてくれるのは、地域の労働力を活用していくことの重要性です。地域のパートナー企業と連携しながら、地域ごとに労働力支援を行うことは、これからのJA全農にとって重要な仕事のひとつになると考えています。
後者の「スマート農業」について言えば、農林中金、JA全中、JA共済連といったJAグループとともに開設した「AgVenture Lab」(アグベンチャーラボ)の取り組みを拡大しています。農業に関心を抱くベンチャーや企業、大学、行政などが所有する多様な知見、多彩なテクノロジーを活用することにより、時代に適った営農モデル、次代に向けた最先端農業を、多角的な見地から模索、実践しています。

各現場で働く職員に
求められていること

いま、JA全農で働く職員には何が求められているのでしょうか?

多様性を受け入れる柔軟な心とアライアンスという他流試合ができるスキルを持つことです。ここまでの話からもおわかりのとおり、JA全農はいま、さまざまな企業・団体との連携を強化し、積極的なアライアンスを進めています。なぜなら、JAグループ単独ではもはや対応するのが不可能なほどに、時代や社会が急速に変化しているからです。
そこで〈消費〉の現場においては、国産野菜へのニーズの高まりを踏まえ大手コンビニチェーンと共同で野菜サラダを作ったり、地方を元気にするという目的をともにする鉄道会社と組んで、駅のコンコースで定期的にマルシェを開いたり、ふるさとの味を伝えるドライフルーツを開発して駅売店で販売したりしてきました。さらに進行形の取り組みとして、飲料会社とアジア市場向けに高級フルーツジュースの開発を進めたり、そのアジア市場で店舗網を拡大しているディスカウントストアと日本産農畜産物を楽しんでもらえる機会の創出を模索したりしています。
また、〈生産〉の現場では「AgVenture Lab」を通じ、さまざまなベンチャー企業にトライアルの場を提供し、若手職員たちを伴走者としてその任に当たらせています。ロボット技術やAIを活用した一連の取り組みは、労働力不足という課題に直接アプローチしていくものだけに、これからの農業を大きく変えていく可能性を秘めています。

多様なパートナーとともに「食」「農」「地方」を起点にした新しい事業を起こしていく、そうした仕事が求められているわけですね?

そのとおりです。トップセールスを通じて実感しているのは、〈消費〉の現場では私たちに追い風が吹いているということ。国内市場で進む、健康・安全・サステナブル志向を背景にした量から質への転換、インバウンドに端を発する海外市場、とりわけアジア市場で顕著な日本産農畜産物への需要の拡大。こうした国内外でのビジネスチャンスを前に、どんなふうにパートナー企業を見つけて事業化していくか、職員たちの手腕が試されています。同様に〈生産〉の現場においても、明るい兆しが見えています。農家出身の若手有志たちが地域の耕作放棄地を引き継ぐことで大規模化、法人化を進め、非農家出身の若者たちを社員として採用するという動きが生まれています。また、49歳以下の新規就農者がここ数年、減少することなくずっと2万人台で推移しています。こうした人たちに共通するのは、経営感覚を備え、かつ、デジタル技術を使いこなすということ。こういう新たな農業者と、長年地域に根差してきた農業者も一緒になって、いかに生産基盤の拡充を図り、JAを食のトップブランドへと導く施策を打てるか、これまた職員たちの企画力、実行力というものが大いに問われています。

JA全農が必要としている
人材像

これから入会する人たちに期待することとは何ですか?

JAのブランド力をフル活用し、全農グループの可能性を知り、物怖じすることなくどんどん異文化交流を進め、いろいろな企業・団体の人たちとの関わりを深めていって欲しいと思っています。アライアンスを進めるにあたり、私たちが各社への資本参加に積極的なのも、実はそうすることで相手と同じ立場で、新規事業立ち上げに向けた侃々諤々の議論ができるからです。
組織のトップとしては、職員にこうした場を少しでも多く提供したいと考えていますし、若い人たちには早くからそうした環境に身を置くことで、見聞を広め、見識を深め、情熱的に仕事に取り組んでいって欲しいと切に願っています。私がJA全農に入会して早40年が過ぎましたが、その間の変化など大したことないと思えるくらいに、近年の「食」「農」「地方」を取り巻く環境の変化はすさまじく、これからの5年、10年は、そうした変化が加速度的に進んでいくと実感しています。現にコロナ禍を経験したことでリモートワークが定着し、都心を離れて地方に暮らす人たちが着実に増えています。私たちはこれまでも国内外の観光客に対して民泊ならぬ「農泊」を推し進めるなどしてきましたが、今、多くの人たちが地方に注目しています。社会構造を大きく変える気運が芽生えているときだけに、若い人たちにはそうした変化を面白がりながら、農業生産の維持拡大、それによる地方創生、地域活性化に向け、いろいろなことに積極果敢にチャレンジしてもらえることを望んでいます。

最後に、学生の皆さんにメッセージをお願いします。

いま、多くの企業がSDGsに強い関心を寄せています。それは人類共通の課題であるというだけでなく、SDGsに関する取り組みを強化できない企業は、結局は社会からの信用を失い、淘汰されてしまう世の中になってきているからです。この点で、JAグループには大きなアドバンテージがあります。私たちは「食と農を基軸とした地域に根ざす協同組合」であり、その事業の目的は「持続可能な地域農業・地域社会づくり」にあります。JA全農は、生産者と消費者を結び、産地や地域社会の活性化を促し、先人たちが守り伝えてきた安心・安全な「食」を次代へと継承し、命をつないでいくことを使命としています。つまり、私たちの仕事はSDGsそのものなのです。さらに言えば、JA全農は株式会社ではありませんから、短期的な自社の利益を追求するのではなく、長期展望のもとに生産者と消費者の繁栄を考えていくことができます。だから私たちは多くの企業や団体と提携し、共同でさまざまな事業を行うことができるのです。こうしたユニークな組織のもと、農業の成長産業化を図るだけでなく、「食」「農」「地方」をリソースに企業や社会が抱える課題の解決を図っていく仕事には、大きなやりがいと夢があります。JA全農は、海外を含め905か所の拠点とグループ会社136社を持ち、グループ全体で約27,600名の従業員がいます。皆さんが、この全農グループの可能性を一緒に実現する仲間となり、ともに挑戦する日を、全農グループ役職員一同、心から楽しみにしています。

代表理事 理事長

山﨑 周二Shuji Yamazaki

1978年入会、北海道大学経済学部卒。大阪支所肥料農薬部を振り出しに、主に肥料農薬部門でキャリアを重ね、2005年に本所肥料農薬部次長、2007年に同部長を務める。2011年に常務理事、2017年に代表理事専務に就任し、2019年より現職。子供も独立し、今は夫人と2人暮らし。休日は、夫婦で映画館へと足を運びリフレッシュしている。