日本の食を守るために 〜代表理事理事長が語るJA全農の取り組み〜
代表理事 理事長
神出 元一Genichi Jinde

日本の農業が直面する厳しい現実。

日本の農業は現在、どのような課題を抱えているのでしょうか?

〈生産の現場〉と〈消費の現場〉、それぞれ分けて考える必要があります。まず〈生産の現場〉について言えば、農業の担い手不足の問題が顕著です。農林水産省の調査によれば、2017年時点の農業就業人口は181万人で、1995年と比べると50%以上減少しています。生産者の高齢化も深刻で、同じく2017年時点での農業者平均年齢は66.7歳となっています。

あらためてお聞きすると本当に深刻な状態ですね。

そうなのです。さらに追い打ちになるのが農業の労働力不足です。結果、何が起きているのかと言えば、耕作放棄地の増加です。これは2015年の数値ですが、耕作放棄地面積の総計は42.3万haにのぼり、これは福井県の面積に匹敵します。30年前と比べると全国で3.1倍、米の一大産地である東北エリアにいたっては6.8倍と急速に増加しています。水田は一度放棄してしまうと、再生は容易ではありません。耕作放棄地の増加をいかに抑えるか、これはもう喫緊の課題です。

もうひとつの〈消費の現場〉については、どうでしょうか?

人口減少によるマーケットの縮小、食の多様化による需要の減少が起きています。そして見逃せない変化に、少数世帯の増加が挙げられます。2015年時点の国勢調査などによれば、国内約5,300万世帯のうち単身・2人世帯が占める割合は6割となっています。これは家族で食卓を囲むといった光景が日本から急速に失われていることを意味しており、こうしたライフスタイルの変化が米離れ、青果離れを引き起こしているとの指摘もあります。

この二つの課題によって実際にどのような影響が出ているのでしょうか。

この構造的な変化によって生じた二つの課題が相互に作用して、日本の食料自給率は先進国中最低水準となっています。1年間で必要とする約8,700万トン(注1)の食料のうちのおよそ半分、約4,300万トン(注2)を輸入に頼っています。一方で、消費者庁の調査によれば、年間646万トンもの食料が食べ残しや売れ残りなどの理由によって廃棄されています。これは極めて歪な構造であり、国家安全保障の観点からも見過ごすことのできない現実となっています。
(注1、2)農林水産省「食料需給表」をもとに本会試算

明るい兆しを農業復活のドライブに。

厳しい現実に対して、JA全農はどのような取り組みを進めているのでしょうか?

〈生産の現場〉について言えば、まず生産性の向上に寄与する取り組みを進めています。先程来、暗い話ばかりをしてきましたが、他方で明るい兆しも見えています。そのひとつが、法人経営体の増加です。増える耕作放棄地について、生産者も手をこまねいてばかりではありません。地域の担い手に農地を集約し、その担い手たちが法人化することで、従来の営農からの脱却を進めています。

法人化への取り組みはどの程度進んでいるのでしょうか?

現在、農産物販売金額に占める法人経営体のシェアは3割近くにまでのぼり、存在感を高めています。そして、こうした法人化が追い風となり、従来の「自営就農」に加えて、新たに「雇用就農」も生まれ、49歳以下の新規就農者も3年連続で2万人を超えています。そこで、私たちは何をしているかと言えば、営農の効率化が望まれる大規模経営体に対して、生産性が向上する新しい栽培技術の普及や、ICTの導入を図ったり、労働力支援を行ったりしています。

ICT導入、労働力支援は具体的にどんなことを実施されているのでしょう?

前者については、たとえば営農管理システム「Z-GIS(注3)」の運用をスタートしていますし、後者についてはパートナー企業と連携して「農作業受委託の仕組み」を導入しています。ちなみに「農作業受委託の仕組み」とは、生産者が必要とするタイミングに労働力を提供する取り組みで、これにより週末農業や農業実体験を提供しながら本業のかたわら副業で農業を行う形での新規就農を促しています。
(注3)Z-GISは圃場の所有者や栽培作物、作業記録等のデータを、インターネット上の地図に設定した圃場にひも付けて記録システム。

では〈消費の現場〉においては、どのような取り組みを?

先ほど、少数世帯が増えていると申し上げましたが、これによりマーケットに明らかな変化が生まれています。それは弁当や惣菜などの「中食」市場と、飲食店などの「外食」市場の台頭です。日本惣菜協会などの調べによると、中食の市場規模は10兆円を超えており、外食のそれは25兆円となっています。さらに細かく見ていくと、野菜の消費量のうち6割が加工・業務用、米の消費のうち3割が中食・外食となっています。

野菜にいたっては6割も加工・業務用になるのですね。

そうです。これは需要構造の明らかな変化を示しており、私たちも業務用米の生産を促すなど、従来の家庭向けだけでなく、中食・外食市場向けの生産・販売を強化することによって、国内産の農畜産物の消費を強力に後押ししています。そしてもうひとつ、私たちが注目しているのが「インバウンド市場」です。

「インバウンド市場」といいますと?

周知のように、訪日外国人旅行者数は増加の一途を辿っており、観光庁などの調査によると、2017年の訪日旅行者数は2,869万人にのぼり、その市場規模は4.4兆円と推計されています。そのうち、飲食費と飲食料品の買物代が占める割合は約3割、金額にして約1.2兆円にのぼります。旅の醍醐味のひとつが、ご当地の食文化の体験であることは明らかですから、私たちはこの市場に対しても積極的に働きかけることで、単にシェアを高めるだけでなく、市場規模そのものを拡大していきたいと考えています。

なるほど、マーケット自体を拡大させるのですね。

そしてもうひとつ、検討を進めているのが、民泊ならぬ「農泊」です。インバウンド市場において、飲食費とともに高いシェアを占めるのが宿泊代です。インバウンド市場に占める割合は、こちらもほぼ3割、金額にして約1.2兆円。現状はホテルや旅館での滞在となっていますが、その一部を「農家での滞在」へと取り込むことができれば、農村地域に消費が生まれ、新たな雇用を生み出し、地方創生、地域活性化へとつながります。日本全国、津々浦々にネットワークを張り巡らせるJAグループが総力を上げれば、一大「農泊」チェーンを築くことも不可能ではなく、個人的にも日本での新しい旅の形として定着させていきたいと考えています。

JA全農は本気で日本の農業を変えていく。

うかがっていると、日本の農業が変わり始めていることを感じます。

そうです。もっと言えば、JA全農は本気で日本の農業を変えようとしています。その証拠に、私たちの取り組みは国内だけに留まりません。海外においても積極的に事業を進めています。その象徴とも言えるのが、飼料・肥料原料の安定的・長期的確保への取り組みです。たとえば飼料の原料となるトウモロコシは、ほぼ100%輸入に頼っています。そこでJA全農は、アメリカに「全農グレイン株式会社」を設立し、着実に海外拠点を増やすことで、自前で調達することに注力しています。良質の飼料穀物を安く安定的に仕入れることができれば、日本の農畜産物の価格競争力を生み出し、食肉輸入量を減らすことにつながるからです。

輸出については、どうでしょうか?

2017年、新たに輸出対策部を立ち上げました。これまでもJAグループとして輸出に取り組んできましたが、各JAが独自に進めてきたという側面もあります。しかし今回、同部を立ち上げることによって、各JAの取り組みを連動させ、JAグループのシナジー効果を追求していく考えです。輸出実務は子会社である「JA全農インターナショナル株式会社」に集約し、海外においては新規拠点の設置を進め、現地での販売強化にいっそう注力していきます。

実際にはどのような取り組みを実施されているのですか?

当面のターゲットは成長著しいアジアでの取り組みに注力しています。上海をはじめ、香港、台湾、シンガポールに拠点を構え、現地の展示会にも積極的に参加し、新たな需要の掘り出しに取り組んでいますが、見えてきたのが日本の和牛や米、青果に対するニーズの高さです。原料として、そして加工品として輸出を拡大するために、輸出先国のニーズに対応した青果、加工食品を生産できるよう、日本国内の産地づくりにも取り組んでいます。

ちなみに、海外の販売先も日本と同様、外食店舗、卸・小売業者、量販店といったところになるのでしょうか?

そこは日本も海外も変わらないのですが、そうしたなかで私たちが注目しているのがeコマースです。これは国内の数値となりますが、経済産業省が発表するところによれば、2017年におけるeコマースの市場規模は前年比9.1%増の16兆5054億円にのぼります。実はこの市場規模は、百貨店の6.0兆円、スーパーの13.0兆円をしのいでいます。もちろん、16.5兆円のすべてが物販系分野ではありませんし、eコマース市場における「食品、飲料、酒類」が占める市場規模は1兆5579億円となっています。

eコマース市場の市場規模は、驚く数字ですね。

ECマーケットについて特に私が注目しているのが「EC化率」です。実は「食品、飲料、酒類」は、「衣料、服飾雑貨等」の市場規模1兆6454億円に次ぐ2番目の規模を誇るのですが、そのEC化率はと言えば、「衣料、服飾雑貨等」が11.54%に対して、「食品、飲料、酒類」のそれは、わずか2.41%にすぎません。にもかかわらず、eコマース市場において、ほぼ同じ売上高を示しています。

つまり、eコマース市場における食品分野は、さらなる成長が望めると?

そのとおりです。eコマース市場の拡大は何も日本に限ったことではありません。それは、この分野の巨人であるAmazonがアメリカを飛び出し、勢力地図を諸外国へと拡大していることからも明らかです。そこでJA全農も、すでに中国や香港のeコマースでの販売を進めています。今後も海外拠点を通じて、eコマース市場にも積極的に参入していくことで、日本の農畜産物の販路を海外においても拡大し、人口減少に伴う国内市場の縮小をリカバリーしていきたいと考えています。

生産と消費を一気通貫でつなぐ。

国内外において、実に多様な取り組みが進められていることがわかりましたが、JA全農が目指す姿とは、どのようなものなのでしょうか?

「多様な取り組み」とご指摘いただきましたが、ご紹介した事例は、ほんの一部に過ぎません。繰り返しになりますが、JA全農は今、本気で日本の農業を変えようとしています。ものすごいスピードで変化する時代と同様、私たち自身も大きく変わろうとしています。目指しているのは、「生産と消費を一気通貫でつなぐ、グローバルなバリューチェーンの構築」です。

JA全農は、自ら大きく変わろうとされているのですね。

すでに私たちは「生産資材・生活資材の購買」「農畜産物の販売」という事業の枠を超え、食料を生み出す一大メーカー、その食料を国内外へと流通させる専門商社、そして世界に複数の販路を持ったオムニチャネルへと変貌しようとしています。もちろん、そのすべてを自分たちで担えるとは思っていません。今も取り組んでいますが、今後も異業種とのアライアンスを通じたオープンイノベーションで解決していきたいと考えています。

これからJA全農で働く人にとって活躍できるフィールドは広く、自らの力で日本の農業を変えていけるチャンスにたくさん出合えそうですね。

そこは自信をもって「Yes」とお答えしたい。私たちは、安全、新鮮、そしておいしいという日本品質、ジャパンクオリティの農畜産物を世界中の消費者に届けるために、考え得るすべての手立てを講じていくつもりです。そして、その過程で得られた知見を生産者へと還元することによって、プロダクトアウトからマーケットインへの転換を図り、日本の農業を世界に冠たる一大産業へと導いていく決意です。代表理事理事長として、これから入会される皆さんにお伝えしたいのは、〈生産の現場〉〈消費の現場〉〈海外の現場〉において、ぜひとも「出る杭」になって欲しいということです。私は組織のトップとして、出る杭を打つのではなく、それを伸ばす環境、風土をさらに醸成していくことによって、個々の力を引き出し、JAグループ、そして日本の農業を新しいステージへと押し上げるエネルギーへと変換していきたいと、思いを新たにしています。