産地の農業インフラを
整備・再編
〜農業施設総合コンサル〜

鎌倉 優門

Yuuto Kamakura

2012年入会
工学系研究科修了

本所
施設農住部

施設農住課


建築学を専攻したものの、自分が本当にやりたいこととは何なのかを考えた末に、「食」に関わる仕事に就きたいと思い入会。事業内容を知れば知るほど、JA全農に魅力と可能性を感じたことが理由だった。奇しくも入会以来、生産資材部、施設農住部と、一貫して建築に関わる部門に所属するが、自分の業務が「食」に結びつくものであることを強く実感できているだけに、満足して業務にあたっている。

穴田 渉

Wataru Anata

2012年入会
文学部卒

石川県本部

生産資材部

農機施設課


県外で学生時代を過ごし、地元・石川の魅力や素晴らしさを再認識。地元に貢献できる仕事がしたいと考え出合ったのがJA全農だった。農業の分野において多様な事業を展開し、JAグループの「商社」としての役割に魅力を感じたことが入会理由。生産資材部肥料農薬課、米穀園芸部米穀課を経て、2021年より現部署。JAのみならず、メーカーや行政とも連携しながら、将来的な施設再編を検討している。

築30〜40年を迎え、改善計画が必要とされている。

JA全農が展開する各種事業のなかのひとつに施設事業がある。米麦の共同乾燥調製・貯蔵施設(共乾施設)や青果物の集出荷施設など、JAが所有する農業施設の建設やメンテナンスを手掛ける事業だ。部署には一級建築士やプラント担当者などの専門技術者も在籍しており、どのような規模でどのような機械設備を導入するかなど、農業施設に関するアドバイスや設計も行っている。こうした取り組みのひとつに「農業施設総合コンサル」がある。

JAの農業施設の多くは老朽化しており、産地のインフラ整備・再編は喫緊の課題だ。中でも、共乾施設は築30〜40年を迎えているものも少なくなく、何らかの改善計画が必要とされている。さらには、生産者の大規模化や高度化といった生産現場の変化も進んでおり、それに応じた機能再編も求められている。こうした事情から多くのJAが今、共乾施設をどうするべきか頭を悩ませているのだ。

そこでJA全農が、この課題に対するソリューションとして展開しているのが「農業施設総合コンサル」であり、主に共乾施設を中心として33件のコンサルを実施。自らも一級建築士としてその任にあたってきた鎌倉は、最近も石川県でのコンサルを終えたばかりだが、本コンサルの概要について次のように解説する。

「共乾施設とは、生産者が収穫する米や麦などの穀類を荷受けし乾燥させる共同利用施設ですが、さらに詳しく言うと、乾燥後直ちに籾摺り調製し、玄米出荷する『ライスセンター』と、乾燥後に貯蔵し、出荷計画に合わせて籾摺り調製し、玄米出荷する『カントリーエレベーター』があります。本コンサルでは、各JAが所有するこの2つの施設に対し、あらかじめ課題を特定するのではなく、経営面、機能面、運営面から調査・検証し、そのデータに基づいて総合的な施設の改善計画を提案するものです。最終的な判断は施設所有者であるJAが行いますが、その判断の手助けをしています」

その工程については「調査業務」と「分析・改善提案業務」とに大別される。まず調査業務において、ヒアリング調査、荷受量などの経営状況調査、プラント稼働実態調査、プラント・建物全体の目視調査、そして利用者である組合員インタビューを行う。続いて分析・改善提案業務において、調査結果の分析(課題抽出・改善方向検討)、中間報告(改善方針の提案)、改善具体策(案)の検討、最終報告の成案化・検討会を行ったうえで、最終報告を終える。

鎌倉によれば、ここまでの所要期間はだいたい1年とのことだが、実際にはその後の実践フォローも行っていくため、どの事案も相応の歳月をかけた一大プロジェクトとなっているのである。

施設稼働するだけで赤字が膨らむ、という相談。

実施を終えたばかりの石川県の事案も、まさに鎌倉たちが1年がかりでコンサルを行ってきたものだが、そのアウトラインについて、鎌倉は次のように説明する。

「本事案は石川県内にある16JAのうちの1JAに対し、実施してきたものとなります。このJAの管内にはライスセンターが2か所、カントリーエレベーターが1か所、それぞれ設置されていましたが、どれも築20年を超え、老朽化にともなう設備修繕費だけでも年間で数百万円かかっていました。しかも、施設利用が頭打ちの中、施設稼働するだけで赤字の状態となっていた。そこで県本部からJAへ働きかけたことをきっかけに、本所の私たちが総合コンサルに関する説明を行い、正式に契約を交わしました。そして2020年7月にプロジェクトを発足させて、それ以降は石川県本部と連携して進めてきたものとなります」

プロジェクトは、JAメンバー8名、JA全農メンバー6名の計14名で発足したが、うちJA全農メンバーは、鎌倉を含む本所2名と石川県本部4名の計6名で構成された。まずは同年8月より、鎌倉たちはヒアリング調査、経営状況調査を実施し、同時にプラント・建物全体の目視調査を行った。そして本コンサルの肝とも言える、プラント稼働実態調査に臨んだ。

同調査は、カントリーエレベーターに対して4日、ライスセンターに対して各3日かけ、交代制を敷きながら24時間体制で行われた。稼働中の運転状況の調査と、計測機器を使用したプラントの測定調査を実施し、各プラントが適正な方法で運転されているか、設計上の処理能力が確保されているか、などについての確認が進められていった。

具体的には、カントリーエレベーターやライスセンターの荷受けに要する時間の確認や乾燥機内の穀温・水分等の測定、また稼働状況についての作業員への聞き取りを実施。さらにその後、組合員インタビューも行い、施設の利用状況をはじめ、料金体系など施設に対する評価、要望についてのヒアリング調査をすることで、鎌倉たちは一連の調査業務を終えた。鎌倉は次のように振り返る。

「酷暑のなか、夜を徹しての作業でした。なかなか大変な調査でしたが、ここで得られる知見、データなくしては、その後の改善方針の提案も、改善具体策の検討もできませんので、まさにチームワークで乗り切りました。加えて、こうして得られる知見、データを積み上げていくことが、本事案に限らず、これからの調査結果の分析において欠くことのできないベンチマークを形成していきますので、正確性の確保には万全を期して臨みました」

「1俵当たりの処理コスト」を算出し、ベンチマークと比較。

一連の「調査業務」を終えた鎌倉たちは、直後から「分析・改善提案業務」に着手した。このタイミングで前部署から異動してきた石川県本部の穴田がプロジェクトに合流し、JAからも必要な情報を集めていきながら、調査結果の分析を進めていった。

彼らがまず明らかにしたのは、共乾施設の配置状況、設備の更新状況、利用状況であり、それを踏まえた各施設の経営収支の実態解明だった。収支表を作成するにあたっては、JA提供の施設別収支表をベースに「固定費」「変動費」「管理費」に区分した収支表を用い、施設別に集計を行った。ユニークなのは、経常収支表中の区分ごとの金額を計上するだけでなく、その金額を当該施設で処理された玄米俵で除し、「1俵当たりの処理コスト(円/俵)」として算出。これを過去の調査・研究データにより導き出されたベンチマークと比較することで、収支の均衡を分析していったことだ。

これにより明らかになった「経営面」における主な課題は、施設利用率(稼働率)が60%前半と全国平均と比較し低い水準にあることだった。また、プラント・建物全体の目視調査やプラント稼働実態調査により明らかになった「機能面」における課題は、ベンチマークとしている実耐用年数の約2倍を経過しているだけでなく、現行の一部の設備や部品はもう生産されておらず、突発的な故障が発生した場合は修理ができない状況に置かれることだった。そして、オペレーターへのヒアリングなどにより明らかになった「運営面」における課題は、施設を運転するうえで必要な資格を有している職員の人数が少なく、資格受検には実務経験も必要であることから、計画的な後継者養成を行う必要があることだった。以上を踏まえ、穴田は次のように説明する。

「そこで中間報告における改善方針として、われわれがJAに対し提案したのは3点でした。1点目は、利用向上と運営合理化により、収支改善を図ること。2点目は、再編による機能見直しにより、品質管理機能の維持向上を図ること。3点目は、円滑な運営体制の構築により、人と技術の育成を図ることでした」

そして、この中間報告と前後する形で計8回のプロジェクト会議が開かれ、鎌倉、穴田 らはJAメンバーとの合意形成を図りながら、ハード面とソフト面の双方から改善具体策をまとめたのだった。

まず、ハード面の改善具体策については、次の3案を提案した。既存のカントリーエレベーター、ライスセンターについて、1)カントリーエレベーターの能力増強を図り、1つのライスセンターをサテライト化、もう1つは廃止、2)カントリーエレベーターの能力増強を図り、2つのライスセンターをサテライト化、3)カントリーエレベーターを新設し、2つのライスセンターは廃止。もちろん、上記3案を提案するにあたっては建設費や解体撤去費なども算出し、前提条件となる「現状維持」に要する補改修費、更新工事費などと合わせ、概々算見積も出していった。特筆されるのは、カントリーエレベーターの能力増強にあたっての計画図も添付されたことであり、これは鎌倉ら一級建築士の知見があればこその手厚い内容だった。

また、ソフト面の改善具体策については、共乾施設の利用向上、収支改善を図るために、プロジェクト会議において目指すべき到達点(目標値)を設定した。今回のケースで言えば、2024年を起点に向こう10年の間に、2020年比で約2割の利用率増を目指すことが示された。根拠となったのは、共乾施設を利用していない生産者(組合員)の存在であり、その作付面積だった。彼らの多くが自前の設備を持っていることが未利用の主な理由だが、自前設備のキャパオーバーも想定されることから、共乾施設との併用は十分に期待できる。こうした期待値を、現実的な数値として割り出すことで目標値として定め、同時に利用促進に向けた具体策も示していった。たとえば、大規模農家に対しては通常よりも荷受期間を拡大することで、共乾施設においても処理できる量を増やす、といった具合だ。

地域のインフラ整備は、JA全農が果たすべき重要な役割であり使命。

2021年8月、鎌倉、穴田らは最終報告をJAに提出した。ソフト面における「目指すべき到達点(目標値)」を実現することを前提においたうえで、ハード面における先の「3案」について、それぞれの収支シミュレーションを年単位で向こう10年分まで算出し、どの時点で黒字化するかを表とグラフで明らかにした。もちろん、前提条件となる「現状維持」の収支シミュレーションも明示することで、それぞれの案と比較検討できるようにした。

ちなみに、現在は「実践フォロー」のフェーズであり、県本部の穴田が主体となって支援業務を進めているところだが、穴田によれば当該JAは最終報告を受け、先の3案のなかでも早期に収支が黒字化する「1」を重視したそうだ。ただ、ライスセンターをサテライト化すると籾摺り調製ができなくなることから、組合員にとっては不便となってしまうことを憂慮し、現在は「1」の派生版とも言える、「カントリーエレベーターの能力増強を図り、1つのライスセンターを設備更新、もう1つは廃止」という方向で調整しているという。

そこで穴田も、鎌倉ら本所の知見やノウハウを借りながら、この案を実行した場合の収支シミュレーションを重ねている。ポイントは、カントリーエレベーターの能力増強に加え、ライスセンターの設備も更新するとなると、支出がさらに増え、黒字化するまでの期間も延びてしまうこと。そこで穴田は現在、国のさまざまな補助事業についてリサーチしながら、本取り組みが補助対象となることを裏付けるデータを集め検討したり、他の県本部に同様の事案がないか確認しながら、設備を共同発注することでメーカーと価格交渉できないか探ったりと、コストダウンに向けたさまざまな方策を検討している。穴田は言う。

「せっかく今回のコンサルによって皆が納得できる方針を導き出せたのですから、私としては何としてもそれを具現化し、組合員さんの利便性、そして当該JAの収支改善へとつなげていきたいと思っています。また、県内には同様の課題を抱えているJAがいくつもありますので、個人的には本事例を通じてさまざまな知見を蓄えて、県本部でもコンサルができるようなメニュー、仕立てを今からしっかりと考えていきたいと思います」

さらに穴田は言葉をつなぐ。自分たちが担う施設事業は一般にはあまり知られていないが、生産と消費の現場をつなぐ地域のインフラ整備は、JA全農が果たすべき重要な役割であり使命。ここが欠けると流通が大きく滞る。だからこそ、その責務をきちんと果たしていきたいのだと。そして鎌倉も、穴田の言葉に深くうなずき、次のように話す。

「さらに建築の観点から言えば、農業施設の扱いについては他社にはない独自のノウハウが必要であり、ここで果たすべきJA全農の役割も極めて大きいと自覚しています。企画から設計監理、建物引渡までを一貫して行うJA全農だからこそ、私も建築士として、これからもその職責をきちんと果たしていきたいと思っています」

そして最後に、ふたりは愉快そうに話す。一連の業務が地域に必須の建物、生産と消費の現場をつなぐシンボルとして形に残ることは、自分たちにとっても働く大きなモチベーションとなっているし、何より人知れず重要な役割を果たせているという点で、自分たちの仕事には通人好みの面白さがあるのだと。