日本の食を世界へ 〜アジア市場を中心に進む、国産農畜産物の輸出拡大〜

長友 優

Yu Nagatomo

2008年入会
法学部卒

本所
輸出対策部

統括課


実家が専業農家であることから、日本の農業の発展に貢献したいと入会。経理部で決算業務を通じて経理の知識、会計システムの維持・管理業務を通じてシステムの知識を養い、2018年より現部署。各産地からの依頼、相談に応じて海外取引先との商談に対応するほか、海外バイヤーからの要望に添った商品を各地で探す。また、現在は海外での商標権の管理業務や、リレー出荷体制の構築にも力を入れている。

栩兼 一将

Kazumasa Tochikane

2015年入会
農学院畜産科学専攻修了

JA全農インターナショナル
株式会社(出向)米穀部

米穀海外販売事業担当 


バックパッカーとして世界一周をした後、長野で食べた鯖の塩焼き定食のおいしさに感動し、自分の原点は地方、農業にあると実感して入会。最初の配属先となる営農販売企画部輸出推進課でデリバリー業務を担当し、輸出実務の基礎を学び、2017年より現職。米穀海外販売事業担当としてアジアを受け持つ。月1〜2回の頻度で海外へ出張し、各国の駐在拠点およびパートナー企業と連携しつつ日本産米の輸出販売拡大を担う。

海外拠点の設置も終え、輸出拡大に向けての基盤は整う。

JA全農は2017年に輸出対策部を設置、輸出業務を『JA全農インターナショナル(株)』に集約し、輸出事業の拡大に取り組んできた。これまでの成果について、長友は次のように話す。

「欧米、そしてアジアと、海外拠点の設置もひととおり終え、輸出拡大に向けての基盤はおおむね整いました。今後は、各国の駐在拠点とJA全農インターナショナルを中心に各国での販売をいっそう強化し、輸出対策部は彼らの営業活動が円滑に進むよう、あらゆるサポートをしていく構えです」

長友によれば、その品質の高さと安心・安全という信用力から従来人気のあった日本産農畜産物であるが、近年、増加の一途を辿るインバウンドも追い風となり、さらに世界的に認知度が高まっているという。また欧米では植物由来の代替肉やグルテンフリーなどの食材が人気を集めており、こうした健康志向を背景にして、長寿国である日本の食生活が注目されている。アジアにおいてはフルーツをはじめとした青果物、それを使ったジュースなどの加工品が人気だ。しかも、輸出対策部が輸出業務に着手した当初は高級品としての扱いが主流だったが、中国や韓国だけでなく、東南アジアも急速な発展によって所得も向上していることから、日常使いの食材としての需要も高まっている。

「アジアの市場は人口動態からしても拡大が見込まれますし、距離的にも日本に近いことから青果物の輸出も可能であるという点で、非常に魅力的なマーケットといえます。ただし、日本の農畜産物の認知度が高まるほどに、品質への信用力、日本産というプレミアムを借用しようと各国で模造品も急増しており、商標権の管理業務も私の重要な仕事になっています」

それというのも、日本でブランド価値を高めていざ輸出となっても、その国で商標が取られているとそのブランド名が使えないどころか、商標権の侵害で訴えられたり、輸出できなくなったりするケースもあるからだ。模造品の急増は深刻な問題として長友も対策を講じているが、裏を返せばそれだけ日本の農畜産物への評価が高いことの証左でもある。この事実をとっても、輸出事業は大きな伸びしろがあると長友は指摘するのだ。

注目度が高まっている今こそ、ボリュームを追求する好機。

長友たちは年に3〜4回の頻度で国内外の展示会に出展し、新規取引先との商談や産地商品の海外バイヤーへの紹介など、輸出拡大に取り組んでいるが、その輸出や販売の実務を担っているのがJA全農インターナショナルだ。現在、同社に出向し、米穀海外販売事業においてアジアを担当する栩兼は、輸出拡大に向けた実務を次のように明かす。

「われわれの主要任務は営業ですが、人員も限られるなかで効率的に活動を展開するために重要となるのが、現地カウンターパートとなる駐在拠点およびディストリビューター(卸売業者)を巻き込んだ営業推進です。彼らに日本の農畜産物の情報、セールスポイントをインプットし、要所でわれわれが現場に出向いてフォローアップしながら、取引先の拡大を進めている最中です」

そして現在、この取り組みのもとで栩兼が販売強化に乗り出しているのが「業務用米」だ。栩兼によると、たとえばアメリカでは松阪牛や神戸牛などの和牛が、ヨーロッパでは魚沼産コシヒカリなどのブランド米が人気ということもあり、これまでの輸出は小売業を対象にしたプレミアムな商品が中心だったという。この流れでアジアにおいても高級フルーツや、その加工品などから市場に切り込んでいったが、インバウンドなどにより日本産農畜産物への注目度が高まっている今こそ、ボリュームを追求する最大の好機なのだそうだ。

「そこで、われわれが注目しているのが東南アジアにおける米食文化です。彼らは日常的にお米を食べるうえに、日本に旅行する人が増えたことでジャポニカ米のおいしさを知るようになりました。結果として、各国で日本食レストランも急増しており、寿司、おにぎり、丼物が大人気です。とはいえ、たとえば寿司店を出店するにしても、当地で栽培されている粒が長くて粘り気の少ないインディカ米では、うまく寿司が握れません。おにぎりも同様です。われわれはここに、『業務用米』の大きなニーズがあると見込んでいます」

「ブレンド米」という、業務用向けの新たなビジネス。

栩兼の話は、ここからが興味深い。

「単にジャポニカ米の輸出ということであれば、すでに日本の企業も取り組んでいます。魚沼産コシヒカリ、あきたこまちなどは各国でも出回っています。しかし、業務用としてこうしたブランド米を用いると、原価が跳ね上がって東南アジアでは商売が成り立ちにくい。そこでわれわれが供給するのが、ブランド米ではなく業務用用途に適切な品質と価格のブレンド米です」

JA全農は営農・技術センターを有しており、国内外を問わず、あらゆる米の成分を分析したデータを所有している。そして、そのデータに基づき日本産の米については産地×品種の組み合わせによって、寿司用、おにぎり用、丼用といった具合に、用途に応じた最適なブレンド米を実現できるまでとなっている。こうした知見を有し、それを実行に移せるのは、JAグループのサプライチェーンを担うJA全農だけ。このシーズと、東南アジアに見られるニーズをマッチングさせた天下無双ともいえるビジネスモデルを、栩兼は中国市場も含めれば世界最大規模ともいえるアジア市場で確立しようとしているのだ。

「実は先日、駐在拠点がシンガポールでユニークなお店を見つけてきました。そこは日本の『卵かけご飯』に着想を得て、白身と黄身を分け、メレンゲ状にした白身の上に黄身をのせ、その下に赤身のマグロを仕込ませた黄・白・赤の三色『ツナ丼』で人気を集めています。私も現地に行きましたが、店の人たちと話をすると少し粒感のあるお米が欲しいということで、要望に添ったブレンド米を納入させてもらうことになりました。丼物用という用途だけでなく、個別具体的な嗜好に合わせたお米を供給していくことで、私は巨大市場をジャポニカ米で席巻していきたいと思っています」

さらに長友も、言葉をつなぐ。

「これまでは体制も整っていなかったので、米穀、青果、精肉と、個別の提案活動となっていました。でも、今は栩兼さんら若手が中心となって実践してくれていますが、『丼物ならこの食材と組み合わせても面白いですよ』『この調味料を使うとその食材が引き立ちますよ』といった具合に、各商品を組み合わせた総合提案ができる体制となりました。今後はこうした提案を通じて、主要品目を核にした周辺品目も、輸出の対象として拡大していくつもりです」

輸出事業を通じて日本の農業を再興し、成長産業へと導く。

輸出事業には今、追い風が吹いている。しかし同時に、「日本産だからおいしい」「日本産だから高く売れる」という優位性が、徐々に失われはじめているのも事実である。技術というのは日進月歩。新興国や途上国の技術が日本に追いつくのも時間の問題であり、その先を見据えた取り組みが大事だと、栩兼も長友も口をそろえる。では、今後はどのような取り組みが必要になってくるのだろうか。栩兼は解説する。

「業務用米がそうであるように、様々なニーズや課題を持つ実需者に対して、食べ方やオペレーションを含めた新たな解決策を提案していくこと、そしてそのつながりを広げていくことが大事になります。プレミアムな商品についても、従来の小売業への販売に終始するのではなく、eコマース等の新市場も取り込んでいくことが必要です。東南アジアにおいても物流が洗練されていけば、間違いなく大きなマーケットとなるはずですから、われわれも長友さんたち輸出対策部と連携し、この市場にもどんどん食い込んでいくつもりです。

そのためにも自分たちが彼らの営業力に寄与することが大事であり、課題解決型の商品提案を実現させるための情報共有やディスカッションが不可欠。さらに、そこで得られた知見、ノウハウは、担当品目、担当エリアの垣根を超えて社内で共有し、全世界に水平展開していくことが必要だ。そして長友も、次のように話すのだ。

「アジア市場はやはり主要ターゲットの一つです。農耕民族であるという点で食文化も似ていますし、冒頭でも触れたとおり距離的に近いことから、コストの安い船便でも鮮度が求められる青果物を輸出できます。そこで輸出対策部として今後、力を入れていきたいのが日本国内におけるリレー出荷体制の構築です。日本の国土は南北に細長く、同じ作物でも北海道と沖縄では収穫時期が異なります。このタイムラグを活用し、アジア市場において一定期間、特定の青果物を供給できる状況をつくりだすことで、バイヤーとのWin-Winの関係を築き、販路拡大へとつなげていきたいと考えています。」

そして、この取り組みにはもう一つ、重要な意味があると長友はいう。それは「国内需給バランスの調整と営農の安定」だ。実は輸出事業の最大の目的もここにある。海外へ安定した販路を築ければ、輸出量の調整によって国内相場が安定し、農家の所得も安定する。加えて、現時点では輸出の取り組みについて産地間で格差があるが、輸出にかかる煩雑な手続き、国ごとのさまざまなレギュレーションを長友らが一手に引き受けクリアしていくことで、どの産地も等しく輸出を視野に生産量を増やし、所得向上を図っていける。

長友も栩兼も共通の思いを胸に秘めており、働く大きなモチベーションとなっている。それは輸出事業を通じて日本の農業を再興し、成長産業へと導くことである。