日本の食を世界へ 〜EU、そしてアジアで進む、国産農畜産物の輸出拡大〜

深谷 祐太

Yuta Fukaya

2011年入会
人文学部卒

茨城県本部
管理部

総合企画課
輸出推進室


2016年4月に立ち上げられた輸出専任の部署において、生産者、JA、輸出業者、海外バイヤーとコンタクトを取りながら、輸出に関わる一連の業務に従事してきた。この間、さまざまな見地から輸出に関する情報、ノウハウを収集することを目的に約2年間、ジェトロ茨城に駐在。青果物はもとより、加工食品、水産品、酒蔵、そして食品以外の製造業とも交流。担当する青果物、加工食品の輸出において、その知見を活用している。

浅野 みなみ

Minami Asano

2014年入会
生物資源科学部卒

本所

輸出対策部

統括課


2017年4月に新設された部署で、海外においてはJA全農インターナショナル(株)と、国内においては各産地とそれぞれ連携し、輸出関連拠点を核とした営業力の強化や、輸出先国のニーズに基づく輸出用商品を生産する日本国内の産地づくりに取り組む。さらに国内外での食品展示会の出展、中国や香港のeコマースでの販売、インバウンド誘客の推進などを通じた、新たな需要の掘り出しも進めている。

日本の産地と海外のマーケットとを強固につなぐ。

JA全農は2017年4月より輸出対策部を新設し、輸出事業の拡大に取り組んでいる。輸出実務は子会社である『JA全農インターナショナル(株)』に集約し、現在は海外における新規拠点の設置を推進。2018年には、香港と台湾にも新たに事務所を開設するなど、輸出事業強化に向けた体制づくりを急ピッチで進めている。

その最前線に立つ浅野は、現在の取り組みについて次のように話す。

「注力しているのは3点、『新たな需要の掘り出し』『販売力の強化』『輸出産地づくり』です。部署として立ち上がったばかりでもあることから、当面はこの3点に取り組みながらまず足元を固め、その過程で得られるさまざまな知見や情報をもとに、日本の農畜産物をグローバルに広めていくための具体的な戦略を立案し、各県本部や各JAと連携しながら実行へと移していきたいと考えています」

ちなみに輸出事業は以前から各県本部、各JA単位で進められてきたと深谷は明かす。

「ただ、そのノウハウがJAグループとして共有されていませんでした。ご存じの通り、輸出事業というのは複雑です。輸出相手国が貿易に関して設けているさまざまな規制、ルールを理解しておく必要がありますし、国内においても通関手続きなどに代表される諸官庁への申請・承認、船積み予約や保険の申し込み、保税地域への搬入、輸入者宛てインボイスの作成、そして為替といった具合に、たどるプロセスも多ければ、それに伴う手続きも煩雑です。これらを体系立てて整理し、それを知見としてJAグループ内で共有できていなかったこともあり、私自身、輸出入に関する知識、ノウハウ習得のためにジェトロ茨城に2年間、駐在したほどです」

しかし今回、輸出対策部が新たに立ち上げられ、同部署が『JA全農インターナショナル(株)』と一体となって動き、全国の県本部がそれに連動していけば、日本の産地と海外のマーケットとを強固につなぐサプライチェーンが構築され、JAグループの輸出が飛躍的に伸びていくことが期待されると深谷は話すのだ。

輸出が需給バランスの調整弁となり、営農を安定させる。

JA全農が輸出事業に取り組むことで、日本の農業にはどんなメリットがもたらされるのだろうか。

「従来であれば、PR効果や生産者のモチベーションの向上、一時的な利益確保といったところだったと思います。しかし、本プロジェクトにおいてまず目指すべきは、需給バランスの調整、販路の確保だと考えています」と、深谷。

農業は自然相手の産業であり、同じ時期に同じ農産物が市場に出回る。そのため需給バランスの影響を受けやすく、とくに青果は価格が安定しにくい。豊作で供給過多ともなれば、出荷するより処分した方がコストを抑えて利益が出せるという極端なケースも生まれ、生産者は断腸の思いでそれを実行することもある。もともと国内市場は人口減少に伴い縮小傾向にあるだけに、海外に販路を確保していくことは営農の安定、継続的な農業の実現において、今後ますます重要な意味を持つとのことだ。そして浅野も言葉をつなぐ。

「海外に販路を求めていくことで日本の農業を守るとともに、私たちは輸出を拡大することで日本の農業を再び成長局面へと転じていきたいと、本気で考えています」

だからこそ自分も、先の3つの取り組みに全力を傾けていきたいのだと。そこで、まずは「新たな需要の掘り出し」に関していえば、国内外のフードEXPOへブースを出展することが、そのファーストステップだと浅野は話す。ここでバイヤーたちと交流、商談を重ねながら、今後どのような農畜産物を展開していくべきかを探ることは、重要なテストマーケティングになるのだという。

「また、こうした展示会においては、インバウンド誘客の取り組みも進めています。産地の紹介映像を流し、JA全農が展開する直営レストランを紹介することで、日本への興味を喚起し、日本の農畜産物のグローバルな普及へとつなげていく狙いです」

さらに「eコマース」にも取り組んでいると浅野は話す。香港を代表するインターネット通販サイトにJA全農ページを開設し、青果物、牛肉、米、加工品など、ひと通りの商品を販売。海外でのネット通販を重要な販路のひとつとして確立していくだけでなく、ここで蓄積されるデータを、今後の輸出拡大に向けた戦略を練るための判断材料にしていきたいと浅野は明かすのだ。

リレー出荷体制の整備がJAグループの大きな差別化に。

「販売力強化」について、当面のターゲットはアジア市場だと浅野は説明する。

「すでにアメリカではロサンゼルスに拠点を構えて和牛の輸出に取り組み、ヨーロッパではロンドンに拠点を構えて日本米を流通させています。しかし、どちらも成熟市場ですし、日本からの距離も遠い。対してアジアは成長市場であることに加え、日本からの距離も近いことから、お米やお肉だけでなく、青果も輸出できるのがポイントです」

浅野によれば、香港や台湾において日本の青果は人気が高く、台湾の催事でブドウを並べたときも、現地消費者から「山梨? 長野? それとも岡山?」と産地を尋ねられ、彼らの豊富な知識に驚かされたと明かす。ただし、香港や台湾などでは長い輸出距離や国内外の流通経路が多段階になることなどから、日本の売価の2〜3倍となってしまうため、価格競争力においてやや弱く、マーケットも限定的という。そこでジュースやゼリーなどの加工品とすることで単価を抑え、日本の青果の存在をマーケットにアピールしていくこともまた重要と、浅野は話すのだ。

そして最後の「輸出産地づくり」が、実はもっとも重要なのだと浅野は明かす。

「輸出事業においてJAグループは後発です。日本の名だたる食品関連企業はすでに現地に工場を構えている点でも、私たちはきちんと差別化を図らないと、成長市場といえども事業拡大を望むことは難しいと考えています。それでは、JAグループにしかできないこととはなにか。それはスケールメリットを追求することだと、私たちは考えています」

これにより品目を限定した販売だけでなく、複数品目をセットにした販売もできる。パッケージ化し、まとめてコンテナに収めて輸出すれば、コストも下がって価格競争力も高くなる。ここを追求しない手はないと浅野は話し、深谷も次のように言葉をつなぐ。

「産地を全国に持っているということは、リレー出荷体制を構築できることを意味します。日本の国土は南北に長く、同じ時期に収穫できる農産物であっても、北と南とでは出荷時期にタイムラグがあります。つまり複数の産地で切れ目なく輸出し続けることができれば一定期間、海外市場に日本の特定の農産物が存在し続けることになります。しかもJAグループの力を結集すれば、年間を通じて四季折々のバラエティー豊かな旬の農産物を絶え間なく輸出し続けることも可能です。相手にとっても喜ばれるこの体制づくりも重要と考えます」

輸出が当たり前になったとき、日本の農業が変わる。

浅野は指摘する。日本の農畜産物の強みは、安心・安全、そしておいしさにあると。

「とはいえ、もはや日本の専売特許ではありません。技術の進歩によって、今日では世界中から高品質な農畜産物が成長市場を目指して集まってきます。熾烈な価格競争も起きているだけに、私たちは売り方でも差別化を図り、その競争から抜け出たいと考えています」

そこで、たとえばアメリカでは2017年に合弁で食肉加工販売会社を設立。日本から輸出する和牛のブロック肉を、和牛に合ったステーキサイズや薄切りスライスなどに加工することで販売を促進している。また、青果物の品質保持に有効な技術の試験・導入によって鮮度を維持する取り組みも進行中と浅野は明かす。また、深谷も次のように話すのだ。

「輸出事業というのは、輸出開始までのハードルも高いのですが、それを継続・拡大させていくこともまた難しいのです。海外バイヤーからの要望はどんどん高くなっていきます。それは「出荷時期」、「出荷規格」、「出荷形態・資材」、「価格」に至るまで。広げていくため意見が出てくるのは当然のことなのですが、相手の要望を鵜呑みにするのではなく、付加価値をつけて提案をするなど負担が一方に偏らない関係を築くこの体制をつくることも私たちの重要な仕事だと感じています」

そして浅野と深谷は口をそろえていう。簡単に価格を下げるようなことはしたくないと。なぜなら、それが生産者への礼儀であり、私たちのプライドなのだと。

 

浅野は輸出事業を通じた自らの夢を、次のように語る。

「海外で日本車や日本の電化製品などを目にすると、日本人としてうれしいし、誇りに感じますよね。私はこれを日本の農畜産物で実現したいと夢見てきました。そして日本の農業の実力を世界へと伝え、日本の農業の活性化につなげていきたいと」

深谷も同意を示し、次のように話す。

「ひとたび世界へと目を転じれば、日本の農業を復活させる可能性が広がります。生産者の皆さんが輸出を当たり前ととらえる環境が整ったとき、日本の農業は確実に変わっているはず。だから私も輸出事業の継続、拡大のために、これまで輸出品の対象にのぼらなかった品目についても、自分なりにその可能性を探っていきたいと考えています」